故人を偲んで。
エリス・レジーナ没後30周年でございます。今より30年前、82年の本日に重度のコカイン中毒者だった彼女は、奇しくも今の当方と同じ36歳の若さで亡くなりました。短いキャリアの中で数々のトップセラーを記録し、多くの名作を残した彼女。一般には69年発表の「In London」や、ジョビンとの共演作「エリス&トム」('74)あたりがポピュラーですが、当ブログでは彼女の晩年の最高傑作と誉れ高い79年作「Elis, Essa Mulher」を。
冒頭「Cai Dentro」は
バーデン・パウエル作曲。初めて聴くものにとってはアッパー過ぎるくらいのテンションで、もう少しあとの順番でも良かったような気がしないでもないのですが、いきなり本作の白眉といっても差し支えのない好曲。A2「O Bêbado E A Equilibrista」はジョアン・ボスコ作曲。本作での彼女の歌唱でより多くの人に広く親しまれた軍政ブラジル崩壊の象徴の曲ともいえる「酔っ払いと綱渡り芸人」。彼女が国民的シンガーと呼ばれる由縁のナンバーとも言われています。タイトル曲はジョイスの作曲。当時子育てで第一線を離れていたジョイスですが、この曲が注目を浴びたことをキッカケに業界へ復帰。翌年、名盤「フェミニーナ」を発表することとなります。A4「Basta De Clamares Inocência」はCartolaの作。彼は本作が発表された翌年80年にリオで亡くなったそうで、所謂遺作。A5「Beguine Dodói」はA2同様、Aldir Blanc, João Boscoによるライティングです。
B1「Eu Hein Rosa!」はジョアン・ノゲイラの作曲の底抜けに明るいサンバ・チューン。B2「Altos E Baixos」はAldir Blanc 作詞曲。ストリングスを取り入れた美しいスロー・バラードです。B3「Bolero De Satã」はブラジルのギタリスト兼コンポーザーである、Guinga(ギンガ)の作曲で、Cauby Peixotoのヴォーカルをフィーチャーしたナンバー。B4「Pé Sem Cabeça」はAna Terra, Danilo Caymmi 作。ラストはTunai作のバラードです。
O Bêbado E A Equilibrista Written by João BoscoCaía a tarde feito de um viaduto
E um bêbado trajanndo luto
Me lembrou Carlitos
A lua tal qual a dona do bordel
Pedia a cada estrela fria
Um brilho de aluguel
E nuvens lá no mata-borrão do céu
Chupavam manchas torturadas,
Que sufoco, louco !
O bêbado com chapéu coco
Fazia irreverências mil
Prá noite do Brasil, meu Brasil
Que sonha com a volta do irmão do Henfil
Com tanata gente que partiu
Num rado-de-foguete
Chora a nossa pátria-mãe gentil
Choram "Marias" e "Clarisses"
No solo do Brasil
Mas sei que uma dor assim pungente
Não há de ser inutilmente
A esperança, dança
Na corda bamba de sombrinha
E em cada passo dessa linha
Pode se machuca
Azar, a esperança de equilibrista
sabe que o show de todo artista
Tem que continuar...
陸橋が落ちるように① 夕日が沈んでいく②そこに喪服姿の酔っ払い③が現れると
僕は放浪者を演じていたチャップリンを思い出した
月④はちょうど売春宿のおかみさんのように
冷たい星たち⑤から所場代として
輝きを乞うていた
そして
雲⑥は空の吸い取り紙のようにそこにあり
拷問の染みを吸い上げていた
ああ息が詰まる、 狂った世界!
山高帽子をかぶった酔っ払い⑦は
あらゆる
無法行為⑧を行なっていた
ブラジルの夜⑨に対して 僕らのブラジルのために
僕らブラジルは夢見ている ヘンヒルの弟が帰ってくるところを
危険な状況に巻き込まれて連れ去られた
多くの仲間たちと共に帰ってくる姿を
僕らの祖国 優しき母は泣いている
マリアたちやクラリスたちが泣いている
このブラジルの大地で
でも僕にはわかっている こんな身を刺すような痛みが
無駄になってしまわないことを
希望が踊る⑩サーカスの小屋⑪の緩んだ縄の上で
ロープにその一歩を踏み出す度に
傷つく可能性がつきまとう
全ては運なんだ 希望という名の綱渡り芸人は
全ての芸術家たちのショー⑫が
止まることなく続いていかなければならないことを知っている
①70年代にはベロオリゾンチにおいて政府建造物の「陸橋が崩れ落ち」多くの
死傷者が出る事故が起こった。しかしながらその被災者への補償はおろか、
事件が適切に報じられることさえなかった。
②夕日が沈んでいく=「夜」の到来であり、ここでの「夜」は独裁政権の暗黒さを
現している。①の事件の「崩れ落ちる」と夕日の「落ちて沈み行く」を「cair」
(落ちる)という一語に含ませながら、当時の政権の闇について言及している。
③タイトルにもある「酔っ払い」は、ここでは自由を求める芸術家や歌手、作詞家
等の活動家の比喩となっている。喪服姿については、おそらく①の事故などの
浮かばれない死を受けてのものだろうと推測される。
④「月」=政治家たちの比喩。当時の政治家は、仮に軍の将軍たちが「月は黒い」
と宣言するなら、それを絶対的な真実として取り扱った。そのような表現を受け、
当時の政治家たちは「黒い月たち」と呼ばれることもあったようである。
⑤「冷たい星たち」=軍の将軍たちの比喩。
⑥「雲」=拷問をするものたちの比喩。
⑦=①に同じく芸術家などの活動家。
⑧「無法行為」=当時の政権に対する反逆行為や反政府的啓蒙活動を指す。
⑨「ブラジルの夜」=軍事独裁政権を示唆。
⑩「希望が踊る」=軍事独裁政権の壊滅に対する期待と願いが人々の中で舞う。
⑪「sombrinha」は「パラソル」や「小さな傘」を意味するが、ここではその形から
「サーカス小屋」を示すようである。
⑫「全ての芸術家たちのショー」=反政権活動を行なう芸術家たちの活動を示唆。
Elis Regina – Elis, Essa Mulher. '79 WEAA1.
Cai DentroA2.
O Bêbado E A EquilibristaA3.
Essa MulherA4.
Basta De Clamares InocênciaA5.
Beguine DodóiB1.
Eu Hein Rosa!B2.
Altos E BaixosB3. Bolero De Satã
B4.
Pé Sem CabeçaB5.
As Aparências EnganamCredit;
Acoustic Guitar – Joyce
Bass – Luizão Maia
Crotales – Chico Batera
Drums, Bongos, Maracas, Claves – Paulinho Braga
Guitar, Acoustic Guitar – Hélio Delmiro
Keyboards – Cesar Mariano
Producer – Cesar Mariano
Producer, Engineer – Mazola
Saxophone – Zé Bodega
Tambourine, Percussion – Cidinho
Trombone – Edmundo Maciel
Trumpet – Marcio Montarroyos, Maurilio Santos
Vocals – Elis Regina
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